東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 芹澤研究室
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研究内容

加水分解触媒としてのセルロース

木や草などに多く含まれるセルロースは、地球上で最も豊富に存在する有機物です。天然のセルロースは、ナノ(10億分の1)メートルサイズの直径をもつ細長い繊維状の形態をしています。最近我々は天然物から抽出・精製したセルロース繊維にペプチド(アミノ酸がつながった生体由来の有機物)が接触すると、その場でペプチドが加水分解される新しい現象を見つけました。温和な水溶液中でおこる全く予想外の化学反応であり、世界初の発見です。そこで、セルロース繊維による様々な有機物の分解反応を解析することにより、その分解メカニズムを明らかにしようとしています。また、有機物を最もよく分解するセルロース繊維を天然から探し出し、最適な抽出・精製方法を検討しています。最終的には人体に有害な毒素、ウイルス、大腸菌などを天然由来のセルロース繊維により無毒化することを目指しています。

図1 天然由来の単結晶セルロース研究の概念図
図1 天然由来の単結晶セルロース研究の概念図
(左)セルロースの構造と形態
(右)セルロースが示す加水分解触媒活性の模式図

合成高分子の構造を見分けるペプチド

生命活動は体の中で分子と分子が相手を間違えることなく見分けて結合することにより成り立っています。生体由来の分子、例えばペプチドが結合する相手は生体由来の分子だけなのでしょうか?ペプチドは20種類のアミノ酸の組み合わせからなります。10個のアミノ酸からなるペプチドの場合、その構造には20の10乗(10兆)通りの可能性があります。生体はこれらすべてを利用しているわけではありません。つまり、進化の過程で淘汰されたペプチドの中には、人工材料の構造を見分けて特異的に結合するものがあるかも知れません。我々は合成高分子のわずかな構造の違い(立体規則性、両親媒性、結晶性、多孔性、直鎖・分岐構造、集合構造、側鎖構造など)を見分けるペプチドが実際に存在することを明らかにしています。そのようなペプチドを見つける手法として、生物学的に構築したペプチド集団から特定のペプチドを釣り上げるバイオテクノロジーを用いています。得られたペプチドを高分子の表面処理や微粒子形成など高分子材料の世界で応用しています。

図2 高分子結合性ペプチド研究の概念図
図2 高分子結合性ペプチド研究の概念図
(左)目的ペプチドの探索法(ファージディスプレイ法)の模式図
(右)イソタクチックPMMA結合性ペプチドのまとめ

ソフトマテリアル素材としての繊維状ウイルス

ウイルスは細胞の力を借りて自らを増殖する、生物と無生物の中間に位置づけられる分子です。それらは遺伝子である核酸とその遺伝子に由来するタンパク質との複合体として存在しています。ウイルスがもつ遺伝子に任意の操作を加えることにより、望みの位置に望みのペプチドやタンパク質をもたせることができます。言い換えると、望みの位置“のみ”に欲しい機能を欲しい数だけ簡単に付与できることを意味します。また、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などで可視化できる分子サイズであることも魅力の一つです。我々は、そのような優れた特徴をもつウイルスの中から、人体に無毒で極めて細長い形態をもつ繊維状ウイルスに着目しています。それらを直鎖状の高分子に見立てながら新しいソフトマテリアルを創製しています。材料を構成するウイルス分子の集積構造を解析し十分に理解したうえで構造・物性・機能の相関について明らかにしたいと思っています。ウイルス研究は生物学や医学の世界で発展を遂げてきましたが、化学の力でウイルスに新しい価値を創造することを目指しています。

図3 ウイルスを素材とするソフトマテリアル研究の概念図
図3 ウイルスを素材とするソフトマテリアル研究の概念図
(左)M13ファージとの相互作用によりフラクタル集合した金ナノ粒子
(右)その模式図

ナノチューブを水中分散する生体高分子

ナノ(10億分の1)メートルサイズの直径をもつナノチューブは、その特徴的な構造と興味深い物性から近年注目されているナノ材料です。我々が扱っているナノチューブは窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)です。BNNTはよく知られるカーボンナノチューブ(CNT)の炭素原子が窒素とホウ素に交互に置き換わった化学構造をしています。BNNTはCNTに比べて熱安定性や力学強度が高く、最近ではCNTよりも生体毒性が低いことが提唱されています。その一方でBNNTはほとんどの溶媒に溶解(分散)しないため、取り扱いが難しく材料応用の大きな妨げになっています。我々は生体高分子(ペプチド、ヌクレオチド、多糖など)やそれらのモデルである水溶性高分子などでBNNTを包み込むことにより、BNNTを水中分散させることに成功しています。医用材料(DDSやバイオセンサーなど)に応用することを念頭に置きながら、水中分散したBNNTの基礎特性を解析しています。

図4 生体高分子によるBNNTの水中分散研究の概念図
図4 生体高分子によるBNNTの水中分散研究の概念図
  • 国立大学法人 東京工業大学
  • 物質理工学院 応用化学系
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